1次選考 あと一歩の作品選評

『月明かりの恋人』/新島智史

あらすじ&コメント

真面目だけれど不器用な女性、月子は、巨大地震をきっかけに、漠然とした不安に襲われていた。恋人はなく、会社の先輩、久我に片思いしているが、気持ちを伝える術も見つからない。自分はこのままで幸せになれるのだろうか。
すると、自分の弱さと孤独を痛感していた月子の目の前に、二匹の小さな獣が現われる……。

日々の仕事に疲れを感じていた女性、月子が震災を受けてさらに落ち込んでしまう。そのあたりの心情はとても良く描けていると思います。月子の先輩、久我の描写も、人柄がきちんと伝わってくる描かれ方をされていて、上手です。が、それ以外の登場人物の背景までもを深く描きすぎていて、長く冗長な文章になってしまっています。せめて月子、久我、智美の3人に絞ったほうがよかったのではないかと感じました。
それから、あらすじにあった「シビアな現実に、ファンタジーが今、対決を挑む」という一文にはとてもわくわくさせられたのですが、肝心のその構造を活かし切れていません。それどころか、月子の日々を描くあたりに非常にリアリティがあるため、ドキュメンタリーとファンタジーを交互に読まされているような違和感がありました。
人物の心理描写や仕事の様子などを描くのはとても上手だと思うので、あえてあれもこれも詰め込まず、「どうしても書きたいもの」以外をそぎ落とす勇気が必要かもしれません。


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