1次選考 あと一歩の作品選評

『ソムリアに棲むエルフ』/清水琉風

あらすじ&コメント

物語は、大きく分けて三部に分けられる。第一部は、日本人留学生の飛鳥が中国の大学でポーランド人留学生のアレクセイと恋に落ち、ソムリアという南の島で新婚旅行をする話。第二部は、時空の歪みに落ち込んで太古の世界へ行ったアスカが、特殊な能力を持ちながらも他国から迫害されるソムリアという国の革命のイコンとなって戦う話。第三部は、アレク(セイ)の苦渋の裏切りによってソムリア人の命である言語が弾圧され、ソムリア国が滅びる過程が描かれ、最後に明日香という名で蘇った主人公がジョンという名のアレクセイの分身と再会する話──。
 
その壮大な世界観と想像力に圧倒され、最後までいっきに読まされた。しかし、それでも通過作として推せなかったのは、壮大なるがゆえに物語の語り口があらすじ化し、読み物としての小説の面白さを犠牲にしてしまったところ。もし、小説として読者に臨場感を与えるように書くならば、数十巻を要する年代記になるだろうし、スタインベックの『エデンの東』を映画化したときのような大胆な省略が必要だろう(あるいは『天空の城ラピュタ』のように国が滅んだあとの後日譚として描くとか?)。いずれにせよ、膨大な改稿作業となるために通過作品として推せなかった。
改稿ポイントとして是非考えてほしいのは小説の臨場感はもちろん、世界観のほころびだ。ソムリアという国が言語によって優秀性を持ち、独自の存在となったというメイン設定は秀逸ながら、欧米の肥満国家の日本食ブームを結びつけた部分など、こじつけに過ぎて、白けてしまうところが多々ある。キリスト教(?)の残虐性や第二次世界大戦での日本軍のアジア侵略、南京虐殺、従軍慰安婦問題といったデリケートな問題を“安易に”詰め込むのもいかがなものかと思う。こういう重い題材は、真正面からじっくり描くにしても、さりげなく物語にとけ込ませるにしても、参考文献を1、2冊読むだけでなく、もっと深く勉強してから取り組む必要がある。また、北欧神話のエルフと日本人の先祖であるソムリア人との関係もよくわからない。それから、ソムリアという名は、東アフリカのソマリアを連想してしまって、よいネーミングとはいえないと思う。


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