1次選考 あと一歩の作品選評

『嘘に濡れる花』/藍

あらすじ&コメント

作家志望の藤森青乃は、家庭教師として教えていた高校生・西荻耀の作品を自作と偽って文学賞に応募し、作家デビューをはたすが、その後、耀の作品を上回るものを書けずに焦りをつのらせていた。そこへ、かつての教え子・耀が期待の新人作家として現われる。盗作をネタに青乃に体の関係を迫る耀、作家の地位にしがみつきたい青乃。二人の思惑がからんで……、というサスペンスタッチの、ちょっと屈折したラブストーリー。

プロットに破たんはなく、物語を構成する力の高さをうかがわせます。文章表現についても的確で、ヒロインの後ろめたさや焦燥が上手く描かれています。
問題は、テーマ設定と題材です。ひらたく言えば、これは内輪受けねらいのネタです。作家の創作の悩みや出版界の裏事情を材料に書くのは、デビューして経験を積んでからの方が説得力を持ちます。才能の無駄遣いという気がしてなりません。大いなる助走を終え、新たなテーマに向けて再スタートを切られることを期待します。


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