1次選考 あと一歩の作品選評
『マリッジ・プリパレーション』/鈴木亜希乃
あらすじ&コメント
結婚式を間近にひかえた杏子が、学生時代からの知り合い、凌に京都旅行に誘われ、ときを過ごすうちに学生時代を回想する。物語は過去と現代を行ったり来たりするが、やがてふたりがかつての恋人であり、これから結婚するカップルなのではなく、すでに別れ別れになっていた仲だったということが明かされていく──。
金閣寺について、「建て直したことに意味はない、燃えたということに意味がある」などという警句にハッとさせられたり、軽口を連発するヒロインの一人称のユニークな語り口を楽しく読んだ。また、学生時代特有の恋の面倒くささ、不器用さもよく描かれていたと思う。だが、惜しいのは物語の密度が薄く、食い足りないところ。規定枚数には達しているようだが、体感枚数では100枚程度に感じた。主役だけでなく、映画サークルの一員などの脇役をもう少し丁寧に描けば、もう少し読み応えのある物語を作ることができたのではないかと残念に思った。あと、物語の大事な部分を登場人物が作った自主映画作品に語らせている部分、言葉で映像作品を描写するという難しいことに挑戦しているのはわかるが、映像が頭に浮かんでくるような文章ではなく、抽象的で何も伝わるものがなかった。