1次選考 あと一歩の作品選評
『冬桜の咲く街で』/佐枝せつこ
あらすじ&コメント
ある殺人事件の指名手配犯として逃亡生活を続ける井上亮平は、身元を偽り、冬桜の咲く花乃木町の居酒屋「冬桜」で板前として働いていた。女主人の清美は、板前「元さん」の誠実な仕事ぶりを信頼し、いつしか思いを寄せるようになるが、あることがきっかけで疑念を抱くようになる。元さんはもしかして、あの殺人事件の指名手配犯なのではないか? 愛する男の知られざる真実の姿を調べていくうちに、いくつもの殺人事件が絡み合った意外な真相が明らかになっていく……。
複数の事件を絡ませながら最後まで書ききった筆力は見事です。この先どうなるんだろう、とワクワクしながら読み進めることができました。しかし、要素を盛り込みすぎたぶん後半の謎解きが駆け足になってしまい、前半の盛り上がりに反して尻すぼみになってしまった感は否めません。
何より致命的だったのは、「元さん」こと井上亮平と清美の恋模様がおざなりになってしまっている点。この二人にもっと的を絞り、「逃亡犯との切ない禁断の恋」に特化したほうがより心に響く作品になったのではないかと思います。