1次選考 あと一歩の作品選評
『ネズミとネコの代理戦争』/高橋篤史
あらすじ&コメント
ネコとネズミの戦いが繰り広げられている高須商店街で、ひょんなきっかけから代表戦を戦うことになった美咲と優介の恋愛を描いたファンタジー小説──。
奇想天外な着想で、楽しく読めた。だが、喫茶店を営む鈴子の年増の色気や、スーパー白井のおじさんの人間くささがよく描かれているのに比べ、主人公の若いふたりのキャラクターが品行方正で幼稚なのが物足りない。また、何の変哲もない商店街が妖気あふれる戦場に変わるあたり、もう少し説得力のある描写がほしかった。
技術的な面では、視点が冒頭からコロコロ変わるところが読みにくく、クライマックスが三人称に変わるところに違和感があった(同じ場面をふたつの視点で二度語るというのは、よほどの意味がなければ退屈になってしまう)。結末も尻切れトンボで、物語がキチンと完結していない印象。再会のための儀式のディテールはとてもうまく作られているが、とってつけたようにしか描かれていないため、最後まで読んだ読者は、これまで付き合ってきた物語に裏切られたように感じるだろう。