1次選考 あと一歩の作品選評
『魂は、唇でしか触れられない』/風谷 七
あらすじ&コメント
輝くように美しい少年、黒崎要に呪いがかけられたのは小学校5年生のとき。それは、クラスメイトの後藤真奈美と想いを通わせ、キスした瞬間だった。真奈美は一瞬で要の記憶だけを失い、ショックを受けた要は埋めようのない喪失感と孤独に苛まれ、悩み多き青年へと成長する……。
純粋で幼い恋心を繊細で落ち着いた筆致で書き上げた作品。幻想的な物語に仕上がっていました。愛情に恵まれない環境や生い立ちを嘆き、憧れていた男の子に呪いをかけた謎の少女の一方的思い込みと、現実と悪夢のような心の闇の狭間で葛藤する要。自分の世界に閉じこもりがちな登場人物たちの心情が細やかに描かれていますが、気になったのは「キスによって記憶が消える呪いの謎」が結局、要の夢のなかで解説されるという点。緻密に書き込んでいるだけに、肩すかしを食らった気分になりました。