1次選考 あと一歩の作品選評
『早春の向日葵』/栄理灯
あらすじ&コメント
中学3年の高野美咲は、伯母の家で暮らすことになり1月に転校した。母が父の不倫を苦に自殺を図ったからだ。家庭の事情や友人関係で傷ついていた美咲は、もうすぐ卒業ということもあって新しい学校で友達を作ろうともしない。そんな彼女に、同じクラスの太陽という男子が話しかけてきた。太陽は、美咲が1人のときは話しかけたり手助けしたりしてくれるが、クラスでは親しいそぶりを見せない。美咲はどこか不思議な雰囲気の太陽のことが気になり始める。だが、太陽には好きな女の子がいるという……。
中学生の女の子にはどうしようもない父親の問題と、心がもっとも傷つく友人とのもめ事。その渦中で、のたうちまわりボロボロになってしまう。そんな少女の様子に、身につまされました。自分勝手で妻や娘のことなど考えてない父親の言動も、いかにも実際にいいそうです。安心して読める文章で、心理描写、情景描写も文句なしに巧い。気になったのは、中学校の先生たちの対応が理想的に描かれているため、現実味がないこと。伯母の言動がありきたりな感じがする点でしょうか。これら脇役に手を加えれば、さらにもっと厚みも可能性もある作品になると思います。また、この作品は、ここでの対象である「ラブストーリー」というより、中学生の「青春物語」との印象のほうが強く残りました。