第8回日本ラブストーリー大賞1次通過作品
『あの時、みさきに会えなければ』/ハルノ富香
あらすじ
ヒデこと安斉秀和は18歳。進学校を卒業したものの、歌手になる夢が捨てられず、楽器を習うための資金稼ぎにアルバイトを探していた。茶髪にピアス、タメ口と受かるはずもなかったが、なぜか業界大手のカナリア出版から「編集補助」として採用される。それは、人気作家「宝田みさき」の「ムネカシ」の仕事だった。カナリア出版では、みさきに胸を貸したその日から、その人が「ムネカシ」となり、編集担当になるのが長年のしきたりだった。初めのうちは、原稿のためにみさきを胸に抱いていたヒデだったが、そのうち、みさきを癒やすためこの仕事を極めようと決意する。人としてどんどん成長していくヒデ──。
あるとき、じつは抱かれていたのは男たちのほうだったのでは?と気がつく。事実、ムネカシを卒業した編集者はみんないい仕事をしていた。その後、歌手のオーディションに受かったヒデだったが、本当に自分がやりたいこととは何なのか?迷い始める。ヒデが選択した道とは……!?
評価・感想
ひと言で言えば“若者の成長物語”なのですが、“作家に胸を貸す編集担当者”というありそうでない設定が面白く、二人の関係がどうなるのか?興味をひかれたままラストまで一気に読むことができました。
愛すべき単純男ヒデ、自分を追い込んで仕事をこなす人気作家みさき、錠前を研究している友達のおいちゃん、個性的な同僚たちなど、登場人物はどのキャラクターも魅力的で好感が持てました。作者は人間の本質をよく理解されている方だと感じました。そして文章に無駄がなく読ませる力があります。
一点あげるとすると、ヒデと恋人サチとの関係が希薄で伝わってくるものがありませんでした。とはいえ、主人公の成長していく姿は間違いなく素敵でさわやかな読後感でした。