第8回日本ラブストーリー大賞1次通過作品

『ヘン・イ』/御手洗孝

あらすじ

時は未来。崩壊した地球をあとにし、人々は宇宙へと新世界を求めさまよい、新たなる星に生活の場を見出していた。しかしその文明豊かな星で、快楽薬「H.D」が蔓延し始める。その薬は、使用限度を超えると、人間が「H.D変異体」へと変異し、もとの人格を失って他人を攻撃するという副作用があった。
 人々は自衛組織BOBを結成し、H.D変異体の撲滅にいそしむ。隊員の一人、白虎は、女性ながら隊員とつるむこともなく、一人淡々と職務を全うしていたが、組織のリーダー源武とその娘、朱雀との交流により、温かな人間関係を手に入れつつあった。しかし、朱雀は変異体となり死亡。源武が組織を去ったあとも戦い続けた白虎だったが、そこには諸悪の根源による非情な事実が隠されていた……。


評価・感想

設定はSFではありますが、白虎という女性の生きざまをしっかりと描くことで、読み応えのある人間ドラマに仕上がっています。無口で硬派を装いながら、心には熱い思いを持っている白虎の心情もきちんと描けており、「女性があこがれる女性」として非常に魅力的です。また、架空の星という設定ながら、情景描写や人々の様子なども上手に表現できていて、発想力も素晴らしいと感じました。
しかし、登場人物たちのセリフがやや仰々しいというか、リアリティに欠けるところが気になりました。設定が設定なので多少の演出は必要かと思いますが、擬音や芝居のセリフのような会話が続く部分は、少々興ざめするところも。設定に酔いすぎずに、会話文を抑えめにしたほうが、より読者に感情移入させることができたかもしれません。

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