第8回日本ラブストーリー大賞1次通過作品

『儚げ!』/雨音 ちさと

あらすじ

テニスサークルに所属する、ちょっと変わり者の女子大生・夏希。成り行き上、サークルの先輩であるイケメン・篠原を好きだと言ってしまったことから、本人公認(?)のストーカーとなる。彼が働くドーナツ屋で一緒にバイトをすることになり、距離が近づいたように思えたが、彼女のいる篠原は振り向いてくれず……。


評価・感想

「牛がしゃべる話」という点では、万城目学の『鹿男あをによし』と似ているし、ヘタレな神様が出てくるという点では、松尾祐一の『昼寝の神様』とも近しい。森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』から連なる「荒唐無稽な青春もの」の系譜にカテゴライズされるだろう。そのガールズ版といったところか。だから、「どこかで読んだことがある」という感は否めない。でもなぜか惹きつけられてしまう引力というか、魅力があるのだ。
誤字脱字も多いし、「成り行きで篠原を好きと言っただけの夏希が、篠原本人の前でも恋している体でいるのはなぜか?」など、探せばアラはいろいろあるのだが、“イタおもしろい”夏希のキャラクターが非常によく描けており、読み進むうちに愛着がわいてくる。それに、ときどき、すごく心に響くことを言ってくれるのだ。たとえば下記。
「私は幼い頃。恋人とは絶対的なものだと思っていたのです。その人のためには命まで捧げても悔いは残らないと思えるような。この人でなければ意味がないと思えるような。そんな誰にも代わりのできない唯一無二の存在がどこかにいて、会った瞬間恋に落ちるのだと。けれどもいざ成長して、恋だ愛だと言い合うような歳になってみると、それがいかに現実と離れているか分かります」
 そんな夏希が自覚のないまま恋に落ちていくさまが、恋の本質を突いていてうまい。ディテールを整えていけば、もっと切ないラブストーリーになるのではないだろうか。

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