第8回日本ラブストーリー大賞1次通過作品

『絵事師』/長野薫裕

あらすじ

かつて美大生だった秋草一紀は絵筆を捨て、しがない中年男として西麻布のバーで夜ごと飲んだくれていた。勤務していた広告会社を辞めて独立したが仕事はなく、生活は破綻寸前だ。そんなある日、羽振りがよかったころに出会った銀座のクラブホステスのマユに呼び出され、あることを依頼される。それは、「私を描いて」というものだった。久しぶりに絵筆をとる一紀。やがて実業家のフミコも現れ、一紀に同じ依頼をする。いつしか一紀は、女たちを描く“絵事師”として生活していくことになる。


評価・感想

京都、修善寺、日光、金沢など、いい女とともにさまざまな土地を旅して、うまい料理に舌鼓をうつ。破滅寸前だった一紀が過ごす絵事師としての日々は、男の願望を100%かなえる都合のいいファンタジーだ。それだけに女性読者の反感をもろに買いそうだが、これを支持する男性読者も多いだろう。文体は、気障と浪花節すれすれだが、いくつか印象的な部分もある。例えばこんな具合に。
●「いい男はいない」/いないのではない。男がきちんと見ないだけだ。だが男も同じ台詞を言う。/「良い女が少なくなった」/やはり女が見えていないからだ。
●男は女から生まれて女に育てられる。そして女に命を授けてふたたび男がこの世に生を受ける。若者はまだ女に活かされるということがわからない。

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