第8回日本ラブストーリー大賞1次通過作品
『アパートメント・ラブ』/蒼井ひかり
あらすじ
24歳の秋月杏奈は半年前に務めていた会社をやめ、いまはフリーター。広島市内のボロアパートで一人暮らししている。仕事がオフで予定もない日、ノーメイクにジャージで昼から発泡酒を飲んでいたら、隣に引っ越してきた男が挨拶に来た。広田一颯と名乗る、超いい男! 杏奈はテレビドラマ「月9」の展開を確信したが、話をするうち、広田は小中学校のときの同級生だとわかる。しかも、ズケズケものを言うヤな男だった。広田の口の悪さに、杏奈は負けじと応戦する。そんななか、広田は会社で同期の美人に追いかけられ、杏奈は自分をふった元カレに偶然会う。あれやこれやの事件に遭遇するうち、杏奈は広田の意外な面に気づき、憎からず思い始める。そこに、広田の部屋に彼の3歳年下の弟、瑛二が転がりこんできた。瑛二は広田よりさらに美形で、物静かで空気も読める。しかも、杏奈に何気にアプローチしてきて……。
評価・感想
まずは、主人公の杏奈のキャラがいい。酒好きで男なし職なしビンボーだが、料理上手で恋愛にきまじめなところがぐっと共感できた。広田のイケメンゆえに、周囲の目を意識するいけ好かない男ぶりもいい。そして、何よりも著者の文章にほれこんだ。「(酒を)ちびちびと飲んでたけれど、もうリミッター解除だ」、「彼女は間違いなく一軍の女子」など、言い得て妙、かつ独特の表現と言い回しがぽんぽん飛び出し、気持ちいい。「広田くんキレるのはやーい」、「男に早い言うな!」など、杏奈と広田の痛快な丁々発止のやりとりも、痛快できっぷがよくて、充分楽しめた。元カレに会ったときの動揺ぶり、気になる男が自分を好きかもしれないと分かったときのはじけるような思い、はねる心臓。このあたりのビビッドな心理描写も抜群に巧い。キスシーンは一枚の絵のようなイメージが鮮やかに残った。クライマックスへの盛り上げ方もお見事。
強いて注文をつければ、舞台の広島市の風景はもう少し書き込まないと、知らない人には何がどうなっているのかわかりにくいかもしれない。季節の変わるさまも、ちょっと唐突な感じがした。しかし、これらは作業のうえでは軽く直せること。失点にはつながらない。