第一次選考あと一歩作品詳細
『ヘデラ』 白井 春佳
あらすじ&コメント
大学生になった雨宮こころは、高校時代の園芸部で知り合った千広先輩と付き合っている。だが、先輩にはほかに付き合っている彼女がいるだけでなく、ふいに部屋を訪問したり、数週間も来なかったりして、あいまいな関係が続いている。だが、こころは同級生の日向夏樹に「好きだ」と告白されても先輩との仲を解消できない──。
多感なヒロインの心理が、味覚や嗅覚、触覚などを駆使した、流れるような文体で綴られ、印象的です。こころと先輩の心理的SMチックな関係は、「これで恋人なの?」と不思議に思ってしまう部分もありますが、こころを痛めつける一方でストーカーのようにつきまとって彼女の様子を観察する先輩はきっと、こころを植物のように“栽培”しているつもりなのでしょう。こころが先輩からもらった植物を枯らしてしまうのも、セックスの途中でトイレで嘔吐してしまうのも、それが理由なのかもしれません。
切ない物語ですが、ところどころに無駄な枝葉が残っていて、物語の流れがいびつになってしまっているのが残念です。千広先輩がバイト先の先輩の逢坂さんにこころを強姦させるシーンには「あれ?」という疑問符がつきますし、ある時期までこころの支えだった日向くんが急に悪びれた態度をとるのにも納得がいきません。そもそも千広先輩は、こころをどのような形で愛していたのか、その愛はどのような形で成就(あるいは挫折)したのか、引っ越しを決意したこころの決断を最後に読んでも、すべてに解決がついていない印象を受けます。
この作品には、無駄な枝葉をうまく剪定し、本当に語るべきだったことに栄養を行き届かせる作業が欠けているように思えます。しっかりした幹をもったストーリーを育てるには、無駄な枝葉と大切な枝葉を見極める鑑識眼を持たねばなりません。
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