第一次選考あと一歩作品詳細

『二人の相談』高野丹生


あらすじ&コメント

 結婚3年目のトモとカスミは、広い畑のある日本家屋に住み、ピクニックに出かけたり、捨て猫を育てたりして仲良く日々を過ごしている。ほのぼのとした日常は淡々と過ぎていくが、かつて多忙を極めた新聞記者だったカスミは、タウン情報誌の編集部という閑職へと異動になったことで、その新生活の違和感をぬぐい去れずにいた。その違和感はやがて無視できぬものになり、かつての同僚との浮気がきっかけで、夫婦生活に最大の危機が訪れる──。
 妻のカスミが遅い寝床から起床する様子を、階下にいる夫のトモが物音のみで描写する冒頭からはじまって、小説的な語りのうまさにうならされました。事件らしい事件が起きずとも、ぐいぐいと読まされてしまう筆力です。おそらく作者は、たくさんの優れた小説を読み、その滋養を吸いとってきた方に違いありません。ただ残念なのは、その語りのうまさが物語の構成に追いついていない点です。トモとカスミの日常場面のほのぼの感が生き生きと描かれているのに比べて、物語のキーになる「カスミの違和感」が真に迫ってこないのです。夢を録画できるという「夢屋」という人物は、とても魅力的でファンタジー要素にあふれた人物ですが、物語のだいぶ早い部分で現れ、説明的な結論を与えるだけで退場してしまうため、トモという理想的な夫との生活に違和感を覚えるカスミの「心の闇」の描写が脇に置かれてしまったからでしょうか。終盤、彼女がかつての同僚とセックスをするという行動は唐突というか、無理にドラマチックな要素をつけ足したかのような印象で、それを端にした夫婦の危機の乗り越え方もご都合主義に感じました。もしかすると、「夢屋」が明らかにした結論は冒頭ではなく、終盤で明かされるべきだったのかもしれません。トモと満ち足りた夫婦生活を送りながらも、「とても手に入れたいもの」を求める夢をくり返し見てしまう妻のカスミ。満ち足りた生活を送りながらも、彼女は何を追い求めていたのか?その答えを最後まで引っぱったほうが、物語はもっと面白くなったでしょう。

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