第一次選考あと一歩作品詳細

『フェイク≠蜜月、からだ』 七ヲ゛有美


あらすじ&コメント

 有村真友は、売れっ子の全身フェチ系スタント女優。日々、映画監督たちの発酵しきった要求に応え、頭から蜂蜜をかぶったり、生足でブーツを履いてニオイをつけたりするなど、精力的にハードな現場をこなしている。フェチ相手の仕事が多いせいか、ストーキングされること多数。色恋沙汰に関しては、つねに男に追われる側になっている。
 そんな真友がある日、魅力的なふたりの人物に出逢う。「鰻屋」という雑貨屋の女店主、鰻池。そして、パンクロックバンド「ノラネコマンザイ」のメンバー、龍之介。
  はたして真友は、「追われる」側から、「追う側」へと変わることになるのか? マニアックなフェティシズムの世界を背景に、男女の「追って追われる」関係性を軽妙に描いたオフビートなラブコメディ。
  初期の川上未映子さんを思わせる独特の文体がとても印象的。いつまでも読んでいたいと思わせる、クセになる文章です。好き嫌いは分かれるかもしれませんが、確実にファンをつかめる文体だと思います。キャラクターの性格付けもしっかりしていて、セリフ回しも魅力的。文章力と描写力は並々ならぬものがありますが、物語世界の広がりのなさ、普遍性のなさがちょっともったいない気がしました。
 恋愛において「追って追われる」関係性は普遍的なものだと思いますが、本作の場合、背景に「フェチ」の世界がありますので、限定的な、マニアックな物語であるという印象を受けてしまいます。これでは読者を限定してしまいかねず、じつにもったいない!
 舞台設定をもう少し一般的なものにした作品も読んでみたいです。

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