第一次選考あと一歩作品詳細
『ピース』 虚浦 新樹
あらすじ&コメント
エキセントリックな女性・月川早苗が、さえない性格の杉田光樹を翻弄する話。早苗は交通事故で死んでいるが、撮りかけの自主映画を残して光樹をさらに翻弄する。早苗を慕う、田中育枝という女性の手をつかって──。
抱腹絶倒のセリフのやりとりが小気味いい作品です。が、視点を変えるとそのセリフそのものが欠点にもなります。早苗ないし育枝のエキセントリックなセリフはすべて、光樹に「なんでやねん」とか「そういう意味ちゃう」とツッコミを入れさせるために書かれたもので、まるで2時間も続く漫才台本を読んでいるような気になってしまうのです。演劇の戯曲として読むならばゲラゲラと笑いながら読むことはできますが、小説作品として読むにはあまりに奇怪な世界観です。もちろん、利点と欠点は紙一重で、この不思議な作風を利点ととらえれば、かなり腕の立つ書き手と言えると思います。通過作品として推すか、やめるべきか、かなり迷いましたが、最終的には後者を選びました。「育枝はなぜ自らの身分を隠していたのか?」という大事な謎解きがうまく説明されていないことと、「ピース」という題名の意味が結末部分でとってつけたように説明されるところ、さらには劇中劇として描かれる「自主映画」の内容が支離滅裂で退屈であることなど、利点と解釈することのできない欠点がいくつかあったことがその理由です。
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