第一次選考あと一歩作品詳細
『五月雪の咲くところ』 渡良瀬 一郎
あらすじ&コメント
タイトルにある五月雪とは、台湾で愛されている油桐の花のこと。五月に咲く真っ白い雪のような花で、この物語では純愛の象徴として描かれています。冒頭に台湾の企業名と小川光定氏に捧ぐという一文があり、新光グループをたたき上げで創業した呉火獅氏に出資した日本人の小川光定氏の話をベースに、日本と台湾の歴史についても丁寧に描かれた作品だということがわかります。
日本人の母と台湾人の父のあいだに生まれ、日本国籍を持ちながらも20歳になるまで父とふたり、台湾で過ごした主人公の美雪。幼い美雪を置いてひとりで日本に帰った母と、その母と台湾人の父との結婚を許そうとしなかった亡き曾祖父への想いを胸に日本で暮らす決心をして都内の大学に編入するのですが、台湾人として育った彼女は日本語が話せません。「曾祖父が他界したら日本へ戻る」覚悟があり、「父方の祖父は台湾人なのに流暢な日本語を話した」というのに、なぜ美雪は日本語を学ばなかったのか。そこに何か理由があると思ったのですが、母とのコミュニケーションを取ることを放棄していたというより日本語を話すことに意味を感じていなかったという……。自分の出生の秘密や母、祖父のことを知りたいと思うなら、歴史だけでなくまず日本語を学びたいと思うのでは? と、違和感を覚えました。話の流れに登場人物が追いついていないという印象が残りました。
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