第一次選考通過作品詳細

『わたしが愛した宇宙人』 ゆーう

あらすじ

 入社3カ月にして「わたし」は突如自主退職した。上司で恋人だった春人にフラれたからだ。ビアガーデンで大泣きしながらヤケ酒を呷っていると、奇妙な三人組に声をかけられた。それぞれ、フルフェイスのヘルメット、タイガーマスク、馬の頭の被り物を被った男たち。彼らは互いに抱える「恋の悩み」を、顔と素性を隠して相談したり、慰め合ったりする会のメンバーで、「わたし」を勧誘したいといって、紙袋に目を空けて「わたし」に被せてきた。初めは拒絶したものの、気弱そうなヘルメットの真摯な言葉や、優しいタイガーの慰め、歯切れのいい馬の毒舌に救われ、再会を約束する。そして心機一転、再就職先を決め、ついでに気になる人までみつけた「わたし」は、自らの恋の悩みを打ち明けるうちに、彼らの恋も応援したいと思うようになる。しかし、彼らの抱える恋と秘密は、一筋縄ではいかないものだった。自らの恋もままならないまま、がむしゃらに行動する「わたし」が引きよせた、思いがけない奇跡とは?


評価・感想

 ビアガーデンに、ヘルメット、タイガーマスク、馬頭の男性陣と、彼らに慰められる紙袋を被った女子の構図を思い浮かべただけで笑ってしまった。あずまきよひこ氏に表紙を描いてもらいたいようなユーモラスな描写と設定だ。冒頭に奇妙な状況を作り出して、そこから逆転させて、奇妙な外見に似合わぬ彼らの人間としての情の深さや、背後に隠された心の傷を描き、それぞれの恋を主人公が追うことが、再生につながっていくという、美しいプロット。筆致も軽妙で読みやすい。難を言えば、「ヘルメット」の過去がやや陳腐なことと、ラストで関係者が続出したのが多少ご都合主義に見えること、「わたし」自身の恋が中盤以降おざなりになってしまうので、現在の失恋でも新たな恋の予感でもいいので、ちょいちょい挿入してほしかったという点があげられる。

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