第一次選考通過作品詳細

『双曲線ハッピネス』 東堂 光希

あらすじ

 イケメンのオタク系草食男子・勇魚は、親友に恋人を寝取られ、失意の底から抜け出せずにいた。そんな勇魚の心の支えは、隣人の飯田の世話を焼くこと。大学の先輩で楚々とした美女ながら、家事のまったくできない飯田のために、部屋を掃除し、ご飯を作るという、猫とその飼い主のような奇妙な関係だったが、ふとしたことから一線を越えてしまう。飯田は処女だった。すわ地雷女か?!と警戒したものの、飯田と過ごすうちに勇魚の心にある変化が……一方、勇魚の双子の妹・真魚は、落ち込んでいた勇魚を心配しながらも、自身の恋の終わりに苦しんでいた。愛し合っていたはずの叔母が、彼女を裏切って結婚するというのだ。自暴自棄になり、失調する真魚を勇魚は心配し、長いあいだ、家族が見ないふりをしてきた恐ろしい事実に踏み込もうとする。だが、追いつめられる真魚を揺り動かしたのは、美しい彼女をずっと姫君のように護り続けてきた幼なじみの青年・市原だった。市原の狂おしい恋心に触れた真魚は、愛するという意味を考え始める。


評価・感想

 オタク系草食男子の勇魚(イケメンゆえか圧倒的リア充ですが)、ヤンデレ傾向のある真魚と、時流を捉えた主人公の双子の生き様が双曲線を描くように、一方が下り調子のときは一方が上り調子に見え、一方が上り調子になるともう一方が下り調子になってと、離れた場所にいながら連関し、一瞬交わってまた離れていくというプロットが上手い。とくに初め、兄のダメンズぶりを心配するしっかり者の妹に見えた真魚が、勇魚の復調と入れ替わるように、その内包する闇を露わにする場面転換は凄みがある。勇魚はともかく、真魚の闇がかなり深いので、この子たちはちゃんと幸せになれるのかとハラハラしながら読んだ。勇魚と飯田が家族に会いに行くエピソードが温かく明るい分、真魚の痛みが際立って、ひとつの場面のなかに、異なる主人公の光と影を描き込むのは高度な技量だと思う。人間関係の機微を丁寧に描こうとする姿勢も好感が持てた。難点を挙げるならば、本文中にもあるが、美しい恋人と妹設定って、エロゲーか!という。いや、それは別にいいのだが、登場人物に美男美女が溢れているのは気になった。そして飯田の存在が後半、かなり都合が良すぎるので、もう少し陰影をつけてもよかったのでは。また、文章も非常に読みやすく、とくに前半の真魚の一人称のイマドキのサブカルな若者っぽさが出たテンポのよいドライ感には感心したのだが、後半はそういうのはなくなってしまうので、ちょっと残念だった。

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