第一次選考通過作品詳細

『階上の音楽室』 眞邉 カンヌ

あらすじ

 大津波で人なき町になってしまった故郷にやってきた美大浪人生の石橋圭。彼は、誰もいないはずの母校の美術室で、柊二という少年に出会う。柊二は、遺体で見つかった少女・ハルナの肖像画を完成させようとしていた。やがて、圭も高校時代に振られたモニカという音楽教師の絵を描くことに。そんなふたりの前に、当のモニカが現れる。圭、柊二、モニカ。三人を包みこむように流れる時間。やがて、絵は完成するが、一時帰宅した教師によって圭にもたらされたのは、柊二、モニカの正体と、ふたりの哀しい経験だった……。


評価・感想

 大震災後、被災した人に限らず、多くの人の心を覆う喪失感とでも言うべきものをフィクションに昇華しようとした意欲を、大いに買いたいと思います。けっして凝った文体ではありませんが、荒涼とした町にぽつりと立つ空っぽの学校というひとつの「世界」を作り上げることに成功している点も評価したい。そこで繰り広げられる圭、柊二、モニカの3人の会話が、ごく普通であることが、むしろファンタジックなテイストを演出しています。途中からオチが予測される、後半になると文章が雑になるなど、手を入れる必要はあるでしょうが、多くの人に共感される作品だと思います。

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