第一次選考あと一歩作品詳細

『ロボ婚。』田中 京子


あらすじ&コメント

 仕事のできる美人課長ながら、40歳を目前にして独身のヒロイン・遠山伊織が生活をともにする相手として選んだのは、イケメンで家事も完璧にこなせる和樹というロボットだった──。
 着想が面白く、仕事に生きてきた女性の将来への不安などが描かれていて、とても現代的な題材だと思いました。2050年という近未来が舞台ながら、いまの時代を生きる人からも共感を得ることが出来る物語でしょう。
 しかし、納得できない面もあります。この作品は、「幸せはお金で買うことができるか?」ということをテーマにしながらも、その答えをはぐらかしているように見えてしまうのです。人間との恋の芽生えを予感して、あれだけ愛したロボットを古くなった家電製品のように処分するヒロインの心理は薄っぺらで卑劣です(その卑劣さを隠すための沙希というキャラは、最後になって突然現れるのではなく、冒頭に登場させて効果的な伏線を張っておくべきでしょう)。しかも、その後の状況の変化によってロボットを都合よく買い戻す結末は、ハッピーエンドとは言えないものです(もっとも、「幸せはお金で買える」ことが当たり前になった未来社会の矛盾を告発する意図で書かれたSF小説なら、このストーリーでもありですが、そうした意図は感じられませんでした)。
 「人間とは区別のつかない、イケメンで家事もこなす完璧なロボット」と恋愛するということは、どういうことなのでしょう? 人間は、どんなに美人でも容姿が衰えます。しかし、ロボットの容姿は変わりません。そのような残酷な現実も描ければ、単なる「願望小説」を超えた、「ロボットとの恋愛小説」として深い作品になったに違いありません。

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