第一次選考通過作品詳細

『Nobody Knows ~愛と妄想の暴露本』 弓瀬 まひろ


あらすじ&コメント

 「22歳のイケメン俳優と恋仲になった40歳のフリーライター」の物語。

 ゴシップ記事を書くかたわら、自らの恋人への思いに戸惑う主人公の揺れる心が丁寧に描かれていて、恋愛感情の臨場感が伝わってくる良作でした。

 ところが、ストーリーがあまりに単調なのが最大の難点。起承転結という図式に当てはめると(ふたりが恋仲になってから物語を始めるのであれば、序破急となりますが)、ヒーローとヒロインが恋仲になるまでの「起」と、葛藤もなく延々と続く「承」と続いたあとに、「転」を跳び越えて呆気ない「結」が来るという奇抜な構成。ゴシップを書く立場だった主人公が、自らの恋人関係を隠さなくてはいけないというサスペンス要素をうまく生かせば、読者を引きつけるアクションシーンなども描けたでしょうが、ヒロインが別れの決意をするラストの心理描写は説得力に欠けています。あるいは、恋人関係を解消させようとする事務所の圧力と戦う場面なども描けたかもしれません(ベタですが)。そのような葛藤を通じて、主人公の立場や心の変化(成長?)が最後に描けていれば、もっと感動的な結末になったかもしれません。もちろん、結末をベタに感動的に仕上げなければならないという法はありませんが、なぜこのようなアンチクライマックスの物語にしたのか、その意図が読者に伝わらなければ、小説として不完全というしかありません。文章がうまいだけに残念です。

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