第一次選考あと一歩作品詳細

『千の恋がしたかった』 藤原 琢也


あらすじ&コメント

 脊髄性筋無力症で自発呼吸もできず、10年近くベッドから身動きできなかった17歳の少女・吉永玲子が亡くなった。彼女を担当していた看護師のカヨは、亡くなる少し前の激情した様子が気になり、わずかに動く指で打っていたパソコンを開く。そこに綴られていたのは、何人もの女性の恋愛日記だった。恋をゲームのように楽しむ女性、純愛を貫く女性、セックスに溺れる女性……。読みふけるうちに、カヨは、驚愕する。やがて、日記に登場したのは……。自分と玲子の“闇”と直面することになったカヨの出した結論とは――?

 一次通過にすべきか迷った作品。どんなに恋がしたくてもできない少女が、何人もの女性の恋愛模様を妄想する、しかも、その妄想が、主人公カヨの恋愛模様につながっていくという凝った構成にストーリーテラーとしての慣れを感じさせます。妄想というカタチで恋の諸相を描こうとした点も面白いし、カヨのヒロインらしからぬブラックさや、玲子を「難病の少女」のステレオタイプから大きく外している点も、個人的に好きです。ただ、描かれる「恋の諸相」が女性目線で見ると、いかにも陳腐。構成や設定の面白さを削いでしまっています。また、基本的に文章力はあるのですが、心情描写で三点ダーシを多用しすぎており、後半になると息切れ感あります。

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