第一次選考あと一歩作品詳細

『心中薄墨桜』 川平 那木


あらすじ&コメント

 睦月が小学生のころ、叔母の芙由子が桜の下で心中自殺した。睦月は親しかった芙由子と従兄弟のことが気になり自殺の原因を知ろうとするが、母は教えてくれない。睦月と親しい、もうひとりの叔母の澄子に聞いてもはっきりしない。

 睦月は芙由子のことを心のどこかで意識しながら成長した。大学に進学したころ、彼女は現代美術家の山下と付き合い始める。山下は20歳上で、妻子がいる。ある日、睦月が電話で山下の妻に離婚を迫ったため、ふたりは会うことができなくなってしまう。それ以降、睦月のもとには、山下からの葉書が毎日届くようになった。睦月が社会人になっても変わらず葉書が送られてくるが、睦月は仕事のパートナーである荒木に惹かれ始める。

 一方、叔母の澄子は突然の失恋がきっかけで、体調を崩して死んでしまう。澄子の死にショックを受けた睦月の母は、睦月に芙由子の死の真相を語る。睦月は山下と荒木のあいだで揺れていたが、母の話を聞き、ある決断をする……。

 桜についてさまざまに思うことから芙由子についての回想まで、読み手に各々のシーンが容易に思い浮かぶほど、しっかりした筆致で描かれています。また、芙由子、母、澄子といった大人の女性の人物像と、その姉妹の関係の描き分け方が巧みです。睦月の恋愛もとりわけ山下に対する心理描写が繊細で、身につまされました。ほかの登場人物それぞれの物語もよく考えられているのですが、そこを書き込むあまりか話が長い印象を持ちました。主要人物以外はもう少し削って整理すると、物語の輪郭がさらにくっきりとした作品になったのではないでしょうか。

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