第一次選考通過作品詳細

『ワリナキナカ』 沢木 まひろ

あらすじ

 原宿のヘアサロンで働く美容師・暁(あき)は、妹・泉に押しつけられた猫とふたり暮らし。暁と泉姉妹は、母親が家を飛び出し、父が自殺した後、施設に預けられた。幼い泉は養女として引き取られたが、暁は施設で育てられ、自分ひとりで生きていくと決めた。


評価・感想

 家族であることを拒否する暁と過剰に家族であろうとする泉のコントラストが、現代の人間関係の一側面を象徴しているようで面白い。登場人物は多いが、ひとりひとりの個性を的確に描写しており、読み込んでいくとその人柄や人生観まで浮かんでくる。暁の男友達たちや祐輔の職場の人たちも人間味を感じさせる描き方がされている。暁の生き方に影響を与えた小さな美容室の店主と、高校の国語教師だった祐輔の祖父、ふたりが登場する場面はわずかだけれども読者に強い印象を残すだろう。そして、なんといっても、姉御肌の暁の魅力がきわだっている。この人物描写の巧みさがこの作者の持ち味か。底力ある書き手として推す。

一覧に戻る