第一次選考あと一歩作品詳細
『平行四辺形』 伊藤 孝一
選評
36歳・大工見習い職人・アフリカ系アメリカ人とのハーフの俺は、不毛な毎日をナニカよいことが起きないかと期待しながら、「オカネ・ココロ・シャカイ・コトバ」を関心事として日々暮らしている。女たちと出会いながらも彼女たちの望むものを何一つ与えることの出来ない俺を取り巻く状況は八方塞がり以外の何ものでもない。
韜晦と虚無感と欲望。学識はない、何もないと強がって見せながらも延々と語りつづけることで自己顕示をやめない主人公のあり方は率直に言って不愉快。
しかし、主人公の述懐や、主人公の主観を通した社会や身辺に対する批評、主人公の期待した通りには成立しない恋愛の物語に長々と付き合っていくうちに、何かしらの憐れみというようなものをやがて読み手は感じてしまう。恐らく主人公がもっとも欲しくない「他人からの共感」であるのだろうな、と思いつつ。
→ 一覧に戻る