第一次選考あと一歩作品詳細
『たまむし兄妹』 渡邉 咲子
選評
生活感の薄い母親、しっかり者で気の若い祖母、父親の違う兄との、奇妙であっけらかんとした生活が魅力的です。また物語の中で常識人の役割を担う、幼なじみでのちに主人公の彼氏になる小川くんの存在がいいですね。全体的に非常に瑞々しい印象を受けました。一見崩壊気味に見えた家族が再生する様と、何度か繰り返される「人間。ツライ時ほどいつもと変わらない日常生活を行うべし」という言葉が心に響きます。
難点は、兄の人物像の希薄さです。主人公のみどりは、兄に恋心を抱き、兄と一線を踏み越えることはないまでも、ベッドやお風呂をともにして、恋情とともに安心感ももっています。彼女の心の繊細な動きは非常によく描けているのですが、兄がそれをどう思っているのかがわかりません。兄は妹としてしか見てくれない、とありますが、大学生の男と女子高生がその状況でなにもないというのは、兄の生理は大丈夫なんだろうかと余計な心配をしてしまいます。別に、肉体関係をもったほうが良いと言っているのではなくて、異常なところが魅力だと思いますので、もう少し兄の気持ちが見えてくるとバランスがいいなと思いました。
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