第一次選考あと一歩作品詳細

『虹色の人』 不動 樹理


選評

 名門男子校・私立香稜学院高等学校に通う2年生の那由多は同じクラスの悠介に密かに想いを寄せていた。那由多には特殊な能力があり人の感情が色となって見えるのだが、いつも見えるわけではない。肝心の悠介に対してはほとんど見えないことばかり。そんな彼を理解し支えてくれたのは同じ能力を持つ祖母であった。
 友情が壊れることを恐れあくまで仲の良い友人として悠介に接する那由多。過去のトラウマから女性を避け続ける悠介。同じ匂いを感じながらも一線を越えることが出来ない日々を送るふたり。
 夏休みに入ってすぐ。隣接女子高の葉月から告白されて取り乱した悠介を慰めるうち、那由多は悠介の過去のトラウマを聞くことになる。自分と同じような経験で女性不信になったことを知った那由多は、花火大会の夜、自身の過去を悠介に打ち明ける。
 お互いに惹かれ合いながらも先に進むことができないまま新学期が始まった。その日、悠介に想いを寄せ諦め切れずにいた葉月が取り巻きとともに男子校に乗り込み悠介を襲う。葉月の怒りの色を見た那由多は悠介を守り自らが傷を負う。この事件をきっかけにふたりの仲は急接近するのだが、同性愛に不安を抱く那由多は、とある会話を偶然耳にし逆に悠介を遠ざけるようになるのだった。
 高校生・同性愛・過去の心傷など、定番の話題を盛り込んだ構成だが、コンパクトにまとめているため流れはスムーズで飽きさせない。反面、心理描写に物足りなさを感じる。設定に頼り過ぎているのではないだろうか。
 オーラのような色が見えるというモチーフをもっと巧く使うことができれば、更に面白い作品になったと思われる。現レベルではご都合主義と思われても致し方ない。

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