第一次選考あと一歩作品詳細

『天女恋』 月野津 結


選評

 青森の老舗呉服商「藤代屋」の娘・千代、その姪で養女となった加奈、その息子・信一郎の三代に仕えた乳母・杉乃の目を通して、明治から大正までの世相を背景に悲恋と家族愛の物語を描いた大河ロマンといった趣で、読みごたえがありました。
 制度としての「家」ではなく家族一人一人を大切にした神谷中尉、その友人で恋敵の華族・山崎の人物造形は見事です。ただ、淡々とした語り口のためか、全体にモノクロ映画を観ているようで物足りなさが残ります。藤代屋の娘たちは、それぞれ個性豊かな美女であるはずなのですから、呉服商ならではの華やかなエピソードをもう少し増やしてもよかったのではないかと思います。

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