第一次選考あと一歩作品詳細

『クロ』 田山 はじめ


選評

 スーパーの総菜部で働く平凡なヒロイン、明日香のもとにやってきたのは、幽霊のような少年。クロと名づけられた少年は、ストーカーや爆破テロ犯らによる危険から明日香を守る。当初、クロのことを幽霊だと思っていた明日香はやがて、彼が自在にときを旅することのできるタイムトラベラーだということを知る──。
 とにかく着想がおもしろい作品でした。前半では、彼女に襲いかかる危機を起こしているのが誰かという謎を追い、後半ではガラリと変わって、ときをかけるタイムトラベルものに変わるあたりは非常に面白い。ただストーリーが面白い反面、各シーンの描写力、キャラクターの描き方が稚拙だったのは残念です。特に、ヒロインが恋する曽山という職場の上司は、もう少し肉付けをしなければ、多くの読者に魅力的な男性として感じられないでしょう。恋心を臨場感をもって描くことが、ラブストーリー小説としての第一義だと思います。

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