第一次選考あと一歩作品詳細

『青空、シャウト!』 木村 央志


選評

 大家族の長男として育った生真面目なカンヂ、愛人の子として生まれたシイナ、二人は小学校高学年からの友達同士。それまで男の子として育てられたシイナだが、性分化障害という体質のために中学二年のときに手術で女性の身体になる。級友たちの好奇の目にさらされ偏見に傷つくシイナを、カンヂは常に見守り支え続けた。中学から高校へ、多感な時期を過ごす二人はそれぞれの恋を経験し、やがて、友情だと思っていたものが恋愛感情だったと気づいていく。
 思春期の少年少女たちのみずみずしい恋を、スピーディーな文体とコミカルなエピソードでつづり、ぐいぐいと読ませる快作です。カンヂを取り巻く女性たちも魅力的。小学校6年生のときの初デートの相手・セラ、変わり者だが陽気でおしゃべりな美術部の先輩・リョウコ、才色兼備で大家族を統率する血のつながらない姉・サイコ、いずれも個性豊かに描かれています。強力なライバルたちの出現に、しょげたりすねたりするシイナの幼い嫉妬も可愛らしく、カンヂの鈍感ぶりにイラッとするほど。
 ただし、性分化障害(作中では「仮性半陰陽」)は、エンターテイメント作品で扱うには難しい問題かもしれません。けれども、本作からこの設定をはずしてしまうと、小学生の頃は男の子のようだった幼馴染みが思春期を迎えたら美少女になった、というよくある話になってしまうので痛しかゆしです。

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