第一次選考通過作品詳細
『料理に恋して/カレー編』 熊野 湊
関大に入学した「うち」こと中浜は、料理をこよなく愛する、ちょっとぽややんな女子。なぜか入学後に、大学に芸術学部も、ましてや料理学部もないことに気づき、ないならば自分で作ろうと思い立った。サークルのように(ただし志はサークルではなく学部)呼びかけて学生たちを集め、関大村と呼ばれる学内の一角に小さな食堂を出すことに成功する。高校時代からの天敵・加奈子にしつこくかまわれたり、図書館でバイトする同級生女子・山田さん(実家は八百屋)と仲良くなったりしつつ、料理部の看板メニュー考案に奔走するうちに、料理を通して苦手な人と仲良くなったり、友人の意外な一面を知る。だが、そんな彼女たちの活動の背後に出没するアラフォーのフリーター、「わたし」の影があった。元ジャズピアニストでかつては美貌を誇った「わたし」だったが、大成の見込みのない毎日に疲れ、欲求不満気味な身体を抱えつつ、輝いていた大学時代を懐かしみ、母校の門をくぐる。心身共に追い詰められた「わたし」は、構内でふとカレーの匂いをかいで……。
選評
本作品には、タイトルの前に「エンタメ物語叙事詩バージョン(新小説)」と添え書きがあり、その言葉の通り、短い散文詩を連ねて、Aパート「うち」、Bパート「わたし」の章で、それぞれの物語を交互に綴り、それが次第に交錯していきます。この形式が、「うち」の柔らかな心情や、「わたし」のイライラ感を上手く表現しており、面白さと可能性を感じました。正直、恋愛部分は弱く、「わたし」のキャラクターがややステレオタイプですが、とくにAパートの読み心地の良さや、「うち」をはじめ、「うち」の周りのキャラクターたちの愛らしさ、料理の描写の見事さは特筆すべきものがあります。たとえば、 料理部の友達に「中浜はゆるキャラね」「カタツムリ系ね」「なめくじ系よ」とたたみこまれて、
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