第一次選考通過作品詳細

『モンペ・フェチ』 森 愛

 人口およそ三千人の尾阪村に住む26歳の司加奈は、祖父母の農業を手伝う毎日。幼少のころ父親が自殺し、母親に見捨てられてから、加奈は自分の運命を受け入れるように祖父母とひっそりと暮らしていた。若者も極度に少なく退屈な尾阪村に、ある日ひとりの男が迷い込んでくる。都会の香を漂わせた容姿端麗なその男は、自分が何者なのか記憶がないという。記憶が戻るまで祖父母の家で一緒に暮らすことになった男と加奈は、いつしか恋に落ちるが、男はあるきっかけでAV男優だった記憶を取り戻し、東京に帰ってしまう。男の正体を知っても彼への想いが募る加奈。また、男も都会での暮らしに疲れている自分に気がつき……。


選評

 田舎でひっそりと暮らす加奈という女性と、都会で活躍していたAV男優が出会うという設定がとてもおもしろいと思いました。男性の正体がわかるまでの展開も、謎めいていて引き込まれます。田舎暮らし礼賛な描き方も、いまふうで良いと思います。
 ただ、「男」と「女」で視点を変えて書いている部分が若干読みにくく感じました。三人称で物語を客観的に描いたほうが、年の割には落ち着いている加奈の性格なども、もっと効果的に描けたのではないかと思われます。また、登場人物の感情表現をあまり描いていないため、ところどころ展開が急に感じられてしまう点が、残念に感じました。

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