第一次選考通過作品詳細

『バンドアパートメント』 玉田 繁栄

 外資系IT企業に勤務するプログラマーの「僕」は、彼女の麻衣子に振られた腹いせで地方都市から上京してボロアパートの2階に越してくる。しかし、仕事は完全なSOHOで、部屋から一歩も外に出ない引きこもり生活に突入。失意の日々を送っていた。そんななか、隣人の金髪ダメ人間の加藤が、大音量でギターをかき鳴らして彼の傷心に塩を塗る。逆上した「僕」は、自分を振った麻衣子の形見のベースをかき鳴らして応戦し、誇りを保っていた。そんなある日、加藤との争いの最中、1階からドラムの音が聞こえるようになり……。
 やがてボーカルも加わって、「ハイウェイスター」が大音量で演奏されるこのアパートは、バンドアパートメントと呼ばれる都市伝説となり、近所の女子大の映研から文化祭への出演依頼が来るようになる。そして、ようやく対面するバンドのメンバーたちは、女子大の文化祭に向けて、必死の練習を繰り広げるのだった──。


選評

 非常に風変わりな小説。ローレンス・スターンの『トリストラム・シャンディ』や、ジェローム・K・ジェロームの『ボートの三人男』のように、機知(というかおふざけ)に富んだ語り部「僕」のひとり語りで物語は進行する。メインストーリーは、ボロアパートに住むダメ男4人に、「お嬢様大学での文化祭出演」というスポットライトが当たるという非常にシンプルなもので、ストーリーらしきストーリーはないが、バンドアパートメントという都市伝説が出来上がっていく過程の描写に、わくわくさせられるものがあった。

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