一次選考通過作品詳細

『じゅんじょうかれん』 藤本 純矢

 小さな町に住んでいる主人公の「あたし」。友達もいて、元カレもいるが、退屈や閉塞感に息が詰まりそうな日々。そんな中で、学校の美術の先生に、今までになかった感情を抱き、付き合いだす。教え子との恋に戸惑いながら、先生は、「あたし」と男女の関係に。しかし、どちらも、「そろそろ潮時」だと感じている。そんなとき、「あたし」は、同級生の男子・江本に声をかけられ、彼に新鮮さを感じる。先生との距離は次第に離れていき、やがて決別。元カレのアラタ、江本と、それなりに気楽な日々を送る「あたし」だが、ある出来事をきっかけに、自身の思いを知ることに……。


選評

 ごく普通の日々を送る「普通の女の子」でありながら、心底にアナーキーな思いを抱いている主人公の不良ぶりが共感できます。好意を寄せる男性はいるけれど、「恋する」「愛している」という感情がよくわからない、という彼女の密かな思いは、十代、二十代(もしかすると三十代も)の女性(もしかすると男性も)にとって、理解できるものではないでしょうか。少なくとも、安易に、「恋している」「愛している」と言う人物より、好感を持ちました。
 文章が説明的に過ぎる部分がある、「先生」の人物設定が、既存作にもありがち、など、欠点はあるのですが、主人公への共感を買って、一次通過作品に推します。
 なお、作品内に出てくる曲の歌詞は、鼻白むほど陳腐。最初は、これが大きな欠点かと思いましたが、読んでいくにつれ、もしかすると、現在流行している曲の歌詞って、突き詰めると、こういうことかも……という気がしてきました。作者がこうした陳腐な歌詞に共感していたふりをして、なんとか自分を保っている現代の若者たちへの批判を込めたものと、ポジティブに判断しました。

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