第一次選考通過作品詳細

『さよならアンドロ』 小夜 時雨

 古代ギリシャでは男・アンドロと女・ギュノスが合わさったものを人間としていたというアンドロギュノスの神話を小学生のころに聞いた麻奈美は、幼馴染の希一と自分はアンドロギュノスであると信じていた。やがて思春期を迎えたふたりは、希一の欲求のままに性行為を繰り返すようになるが、麻奈美にとっては満ち足りた日々だった。しかし社会人となった希一は、突然ほかの女性と結婚してしまう。
 そんな麻奈美にある日、希一が入院したと連絡が入る。そこで麻奈美が見たのは疲れ果てた希一の姿だった。希一への想いを確信する麻奈美の前に、希一の担当医の菊池と、希一にお金を貸していたカジノのオーナーの春賀が現れる。彼らと関わり始めることによって、希一と密接だと疑わなかった麻奈美の生活は少しずつ変化していく……。


選評

 幼馴染の希一を偏執狂的に想い続ける麻奈美の視点が、ぶれることなくしっかりと描けています。情景描写やキャラクターの書き分け、状況の説明なども上手です。また、麻奈美の想いを淡々と描くことで、より狂気を上手に演出できていると思います。
 反面、麻奈美の感情があまり伝えられていないため、リアリティに欠けるのも事実で、麻奈美の片想いに共感を得るのは難しいかもしれません。

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