第一次選考通過作品詳細

『琥珀』 石田 みのり

 物語は、クローン技術において世界的な権威である久我原亮がインタビューを受け、高校時代の自分の恋愛を回想する形で展開していく。
 高校生の琥珀は、桜の森にある洋館に住んでいる。人形のように美しく、「学園一の美少女」と呼ばれていた。ある日、琥珀の通う学校に、久我原亮が転校してきた。亮は暴行事件や妊娠事件など悪い噂がある男だが、美しい容姿に抜群の頭脳を持つ。亮と琥珀は出会ったその日からひかれ合い愛し合うようになる。ふたりの恋愛には何の問題もないように思えたが、やがて亮は琥珀が秘密を抱えて苦しんでいると気づく。琥珀の父は総合病院の院長だが、琥珀は父を恐れている。それにもかかわらず、彼女は父の元を離れようとしない。また、琥珀には彼女にそっくりの3人の姉妹がいるということだが、誰もその3人に会ったことがないのだ。
 琥珀はなぜか真実を語ろうとしないが、亮は構わず琥珀と婚約する。幸せも束の間、琥珀は、亮の過去の事件に関わった元同級生に暴行されかけ、昏睡状態に陥ってしまう。しかも、琥珀は極度の悪性貧血を患っていた。


選評

 物語にスピードと独特のパワーがあり、読み手を気持ちよく物語の世界にひっぱっていきます。美男美女の恋愛は、最初は平凡に思えたのですが、ふたりの美しさと強烈な個性が細かいところまで詳しく丁寧に描かれていて、読み手の心をしっかり掴みます。
 自然の描写も美しく動きがあり、傑出しています。桜の森の木々が風に揺れる様子は迫力があり、かつ幻想的。読み終えてなお、桜が登場人物と同等に存在感を持ち続けました。映像を喚起させる力にあふれていて、単なるラブストーリーを超えて、エンドレスに続く幻想世界を見ているようです。著者ならではの世界が、上手に構築されていると言えるでしょう。
 少し気になったのは、後半、異なる時間へのシーンの変換(それがいつ、どの時代なのか)が分かりづらいという点です。そこを多少整理することで、もっと読みやすくインパクトのある物語になると思います。

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