第一次選考通過作品詳細
『55(ごじゅうご)』 矢城 潤一
高校三年生の宏人は半年前から不登校になり、半ひきこもり状態にあった。ある早朝、部屋の窓から目撃した、ゴミを捨てる女性の姿に惹きつけられた宏人は、女性を「ゴミ子」と命名し、その観察日記を自分のブログに載せるようになる。そんな宏人の家に、五十年ぶりにハンセン病の療養所から祖父の健三郎が帰ってくる。突然の同居に反発する宏人だったが、健三郎のペースに徐々に巻き込まれ、父親を産んですぐに死んだ祖母の百合子の墓を一緒に探す羽目になる。お墓を探しながら、健三郎の過酷な過去を知る宏人。偶然にも、図書館勤めのゴミ子が健三郎を手助けしていたことが分かり、三人は百合子の墓を探すため、ともに行動する。調べていくうちに百合子がじつは生きていて、沖縄にいることがわかる。宏人は健三郎とともに沖縄に飛ぶが、百合子はすでに死の床にあった……。
選評
高校生の宏人が、長年存在を知らされていなかった祖父・健三郎と出会うことによって自らを見つめなおす、気づきと成長の物語。引きこもりの宏人と、求めずして引きこもり生活を余儀なくされた健三郎との対比もおもしろく、構成・キャラクター描写も上手です。
ただ、健三郎のキャラが深いぶん、ゴミ子のキャラがややご都合主義になってしまっている点が残念に感じました。健三郎と百合子、宏人とゴミ子、このふたつの恋愛を上手く対比させられると、さらに良くなるかと思われます。
→ 一覧に戻る