第一次選考通過作品詳細

『あんじゃねえ』 佐沢 乃一

 印刷会社で働く平凡なサラリーマン中西は、取引先のパート社員の礼子に恋をする。その気持ちを打ち明け、結ばれたかに見えたふたりだったが、礼子は別れようと思っていた男の子を妊娠し、故郷に帰ってしまう。傷心の中西は、それでも懸命に生きるが、ある日、自分の気持ちに句読点を打つべく、礼子を訪ねる。


選評

 「あんじゃねえ」とは、中西の故郷、福島の言葉。「知ってる人が嫌な目に遭ったり、つらい思いをしているんじゃないかというときに掛けてやる言葉なんだ。英語でいえば、テイク・イット・イージーかな」とのこと。決して美人ではなく、地味な女性の礼子に対する中西のまなざしは、まさにこの「あんじゃねえ」で、彼の心のやさしさが物語全体を包み込む。ただし、「あんじぇねえ」という気持ちが礼子に受け継がれ、別れによって心が荒んだ中西の危機を救うに至る過程がうまく説明されていないため、ラストが尻切れトンボのように終わってしまうのが惜しい。ストーリーが途中で空中分解してしまった感がある。とはいえ、忘れがたい魅力をもった作品。

一覧に戻る