第一次選考通過作品詳細

『愛について、今こそ話そう』 花野 しずく

 30歳過ぎの凛子は、7歳下の義弟、地平と不倫している。夫の優太は凛子に無関心で、自分の弟と妻の関係に気づきそうもない。一方、16歳のマナの家は母親が病死した後、父親が酒に溺れて崩壊状態。酔っぱらった父親に強姦されたマナは自殺しようとしたが、偶然その場にいた優太に助けられる。優太とマナは携帯メールで連絡をとり合ううち、どこか共感し合い親しみを感じていく。
 ある日、突然マナに電話してきた優太はマナに会った後、失踪してしまう。マナは優太の失踪に関わることで凛子と地平とも知り合いになり、優太と地平の生い立ちや心の傷までも知ることになる。自分の不幸も顧みず、優太と地平のことを心配するマナ。彼女と接することで、優太と地平はやがて過去の様々な問題から解放され、自分なりの愛をみつめ直していく。そしてマナも、彼らと出会ったことで自身の愛と生き方を見つけ始める。


選評

 冒頭の「セックスは、心の中の愛のある場所~(中略)の、すぐ隣を突き刺す。」という文章で、するすると物語の世界に引き込まれました。自分のオリジナルな発想と表現を心がけて文章を紡いでいる。その点が、まずは何より魅力的です。文章のセンスがいいと言い換えることもできますが、それだけではない意欲と努力の跡が感じられてステキです。
 20代の男と10代の少女の合コンの風景、会話のやりとりや男の軽い様子など細部まで、いかにも今時と思える風景描写も巧みです。携帯電話を小道具としてうまく使っているので、現代人の心模様や人と人が繋がっていく様が、よりリアルに伝わってもきます。
 マナの家庭の事情、優太と地平兄弟の家庭の事情、地平の初恋、それぞれの生きてきた背景が丁寧に描かれていて、凛子と優太夫婦、凛子と地平、優太とマナ、それぞれの関係に説得力があります。それゆえに、彼らが傷つきながらも「愛し、愛される」ことがどういうことか、自分の言葉で気づいていく姿が感動的です。

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