第三次選考通過作品詳細

『カルナ』 長月 雨音

地元の大学に通う医学部三年生の隆史は、看護師の母と元医師で今は認知症で自宅療養中の源次郎と三人で暮らしていた。隆史は夏のはじめに、中国人の恋人、文芳(ウエンファン)と別れた。『戦争』という過去がその理由だった。どうすることもできずに最愛の人を失い、生きる意味をも失った隆史は、心安らぐ「雨」によって凍死をする計画を立てた。自殺のためにただ冬の到来を持つ隆史。そんな隆史の周りで不思議な出来事が起きる。源次郎の認知症状が改善を認めたのだ。そして、源次郎は「自分の頭にカルナがいる」と言いはじめる。源次郎はカルナを「哀しみの感情からこぼれ落ちた、名もない感情の一つだ」と言い、カルナのことを知ろうと、インターネットや書籍で調べはじめる。だが、源次郎の症状改善は長続きしなかった。数週間後に発作を起こし、寝たきりの状態となってしまう。隆史は夢で、文芳の姿をしたカルナと出会い、源次郎の死期が近いことを知らされる。やがて寒い冬がやってきた。隆史は些細なことで文芳との懐かしい南欧の鉄道旅行と、別れの場面を思い出す。そして、大きな孤独に包まれた隆史は、ついに計画を実行に移した。


書店店員

主人公が自殺を決意する理由が薄弱なのは気になりましたが、彼と共に「カルナ」という哀しみを共有する源爺のキャラクターや母親の凛とした姿も魅力的に描かれていて、そのスケールの大きな世界観を堪能しました。

(丸善/上村祐子さん)

まさに、小説らしい小説。「カルナ」の説明が少し分かりにくく感じましたが、全体的にはとても魅力のある作品だと思いました。

(紀伊國屋書店/白井恵美子さん)

とてもしっかりまとまっていて読み応えがありました。映像化したものも是非見てみたい。

(オリオン書房/白川浩介さん)