最終審査講評

浅倉 卓弥柴門 ふみ剱持 嘉一・渡辺 真貴子大平 洋子関川 誠


浅倉 卓弥 Asakura Takuya / 作家

 第1回大賞の『カフーを待ちわびて』が順調に部数を伸ばしている影響か、今年の最終候補作品のレベルは格段に上がっていた。まず貴重な作品を本賞に預けて下さった応募者の皆様に謹んで謝意を表したい。文の破綻が残った原稿も少なく、基本的には五作とも楽しく読ませていただいた。しかしながらこれは受賞へのハードルが高くなったということでもある。こちらも読み込む目を厳しくせざるを得なかった。

 本賞の最終選考委員は編集者と映画化にかかるスタッフを含む構成になっている。従って選考会では小説としての強度だけでなく、映像的なイメージの鮮烈さや、また書籍や映像化作品がどういった受け手にアピールするかといった内容までが話題に上る。それもまた作品の潜在的な力の一つだと判断するからである。

 まず先に受賞を逸した四作品についてだが、これらは二つのタイプに分かれた。筆力は十分なのに設定や構成に致命的な要素があったものと、独創性や着想は優れているにもかかわらず文章がそれを支え切れていなかったものである。『カルナ』と『夏の雪兎』が前者に、『一秒でも長く君と同じ世界にいたい』と『style』とが後者に当たる。

 大賞に決まった『守護天使』には弱点を弱点として感じさせない破壊力があった。ただ本作への授賞はある意味で本賞にとっても冒険である。ラブストーリーという言葉をどれだけ拡大解釈していいかという部分が選考でも最後まで焦点になった。だが逆にいえば、この点も含めて各方面にいろいろな意味で面白がっていただける結果になったのではないかと感じている。

各作品へのコメント


柴門 ふみ Saimon Fumi / 作家・漫画家

第1回目に比べて今回は読み易かった、という印象を強く持ちました。それだけ<人に読ませる>という意識・技術の高い作品が集まったのだと思います。内容的にもバラエティに富み楽しめたのですが、本格的ラブストーリーが最終選考に残らなかったのがちょっと意外でした。惜しくも今回は大賞とはなりませんでしたが、『style』と『一秒でも長く君と同じ世界にいたい』には次回作も読んでみたいと思わせる何かを感じました。

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剱持 嘉一・渡辺 真貴子 Kenmotsu Yoshikazu・Watanabe Makiko /エイベックス・エンタテインメント 映像企画部 部長代理・映像企画部 企画開発ルーム

 ともすれば漠然とした課題である「ラブストーリー」ですが、去年の大賞受賞作品『カフーを待ちわびて』は、これぞラブストーリー! と言うべく、王道のラブストーリーでした。個人的に望んでいたことは、第1回目大賞作品がこのような正統派であったので、第2回目大賞作品は「おっ?」と思わせるような——例えて言うなら、変化球の作品が選ばれることでした。まさに「漠然とした課題」を逆手に取った、多様性のあるラブストーリーを今後も広く募集すると同様に、この「日本ラブストーリー大賞」自身もバリエーションのある賞であってほしいという願うからです。最終選考に残った作品は事実、嬉しいことに、多様化した興味深いラブストーリー揃いでした。ちなみに、映画化を前提にしているため、エイベックスの審査員は他の審査員の方々とは多少違ったポイント——映像的かどうかについてを最重要視しつつ拝読しています。公開規模はさておき、この作品が「映画」だったら?と考え、脳内で上映しながら読んでいくと、小説に比べて(特に内省的な表現などで)表現の描写の幅が狭められる「映画」という手法においては、作品そのものが剥き出しになり、意外に「話そのものが動いていない」という事実に気付かされることがあります。ついては、そういった意味で、より「映画」を意識した作品が今後多く集まってくることを願っています。

各作品へのコメント


大平 洋子 Ohira Yoko / 宝島社「InRed」(インレッド)編集長

昨年の最終選考作品と比べて、読みやすさという点ではすべての作品が勝っているなと思いました。ただ、自分の中では「これが大賞作品」という決定打がなく、果たして他の選考委員の方々はこれらの物語をどう読んだのだろうと興味津々で選考会に臨みました。

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関川 誠 Sekigawa Makoto / 宝島社 取締役編集1局長

今年で二回目をむかえた日本ラブストーリー大賞ですが、まずはこの場を借りて、前回の報告をさせてください。大賞受賞作、原田マハさんの『カフーを待ちわびて』は2006年12月現在で9万部、審査員絶賛賞受賞作品として刊行されたさとうさくらさんの『スイッチ』は3万部に達し、どちらもさらに部数を伸ばす勢いです。また、『カフーを待ちわびて』の映画化プロジェクトも着々と進んでいます。 どちらも、大成功と呼べる成果を挙げ、二回目の本大賞にも期待が高まりましたが、最終選考に残った作品はその期待に十分応えるレベルの高い作品でした。大きな特徴は、ストレートなラブストーリーだけでなく、趣向をこらしたワザあり的な作品が多かったことで、ラブストーリー大賞の裾野の広がりを予感させてくれました。これは、大きな収穫でした。

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