第二次選考結果

『style』 広木 赤

俺・江角一弥は高専に通う学生。リストカット癖のある私・矢尾猫子のもうひとつの性癖である万引きの現場に居合わせ、結果的に彼女を助ける。一弥はバイト先の店長入谷沙織に好きだと告白される。一弥に助けられたことで猫子は淡い恋心を抱く。彼女がバイトをするファミレスでの友人タマ子は、少々妙なところのある少女だが、一弥の居合わせた駅で電車に飛び込み自殺する。タマ子の指を拾い持ち帰る一弥。彼は沙織と付き合うことにする。猫子は一弥と沙織の店にやって来て、リストカットの傷を見せ、初めてことばを交わし、互いの名を知り、一弥にキスをする。一弥は沙織と結婚することにする。リストカットをはかり、入院した猫子に呼び出された一弥が差しだしたタマ子の指を、猫子は彼に「また会えるために」と託す。そして二人は別れる。


選評

『style』は、異性との濃密な愛情に信を置けない19歳の青年と、盗癖と自傷癖のある女性というふたりの主人公を交互に描くことで、現代の10代の若者が心に抱いている「生きづらさ」を描いた意欲作。
「その“生きづらさ”を自己憐憫でなく、リアルに写し取った著者の非凡さに瞠目した」(梅村)というのは、多くの委員が納得するところで、「前半の展開が鈍く、少し退屈した」という指摘もあったものの「全体を通してみれば、独創性があって印象深い」(坂梨)という感想に行き着くようでした。
「現代の若者の苦悩にスポットが当たっていて、全体的に悲観的、絶望的なムードが漂い過ぎている」(潮凪)という意見や、「主人公のふたりが出会いそうで出会わないというアンチクライマックス的な物語は、ラブストーリーとして弱いのでは」(高嶋)という意見も出ましたが、あえてその苦悩やコミュニケーションの希薄さがこの作品の良さである点も、委員自身が認めています。

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