第二次選考通過作品詳細

『フォーシーズンズ』 高須賀 美樹

都内の大学に通う大学生・櫻井香奈(主人公)が所属している音楽サークルなど、彼女の交友関係を背景に、ストーリーは展開して行く。香奈はサークルの卒業パーティで2年ぶりにサークルの同期(男・北島)と再会する。香奈は、音楽に対する彼の並々ならぬ情熱とストレートな眼差しに惹かれたものの、パーティ終了後は別行動を取る。香奈はその物足りなさを埋めるかのように、サークルの先輩(大橋)と一夜限りの関係を結ぶ。大橋との関係がバレたため、香奈は後悔するも、バレたことがキッカケで北島に告白。香奈と北島は付き合うようになって同棲を始める。しかし、音楽に専念したい北島との距離を埋めることができず、二人は破局。結局、香奈が選んだのは、大学生活を通じて常にそばにいて、北島や大橋との関係について相談に乗って支えてくれた・心友・健太郎だった。


選評

『フォーシーズンズ』は、音楽サークルに所属する女子大生の主人公が、心から恋する先輩のバンドマンと結ばれながらも心満たされず、身近で相談に乗ってくれた“心友”の男性と結ばれるという物語です。主人公は、一夜限りの肉体関係を先輩と結んだり、一途に思いを寄せる男性に告白して同棲を始めたりと、フットワーク軽く次々と恋愛を楽しみます。そのあたりが、「大学生活のモラトリアム感と、そこで育まれる人間関係のひりひりとした熱さの双方がうまく表現できている」(梅村)との評価にもつながりましたが、登場人物たちの価値観がそのモラトリアム感を脱しておらず、「キャラクターの立て方、主人公の恋の思いなどの描写が若干表層的な感がする」(梅村)、「主人公たちの境遇に共感できない」(広坂)という感想を持つ委員もいました。「相手を愛しても愛しても心が満たされないという切なさには共感できるが、その切なさがストーリーに生かされておらず、サラリとしたまま終わってしまった」(高嶋)という意見が出てくる原因は、主人公が人に甘えてばかりのモラトリアム的な価値観から脱し、成長する様の描写の薄さにあるようにも思います。

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