第二次選考通過作品詳細

『夏の雪兎』 高田 在子

34歳の独身OLの倉田千可子は、5年前に同棲していた恋人を事故で失ってから生き甲斐を見いだせず、自分を見失っていた。ある日、児童文学作家の夏野雪兎に声をかけられ、家政婦として雇われることになる。夏野は17歳の頃に、母親が結婚を考えていた男からレイプされるというトラウマがあった。千可子と夏野は一緒に過ごすうちに心が通い合うようになるが、お互いに一歩踏み出すことができないままでいた。そんなある日、夏野を訪ねて昔の恋人が現れる。


選評

『夏の雪兎』は、34歳のOLが、悲惨な過去を持つ若き童話作家の家政婦になり、結ばれるという恋愛小説らしい恋愛小説です。
 「主人公の仕事や社内のエピソードにリアリティーがあり、描写力にすぐれ、破綻がない」(坂梨)、「トラウマを抱えた童話作家の過去のエピソードに斬新さがあり、飽きさせずに最後まで読ませる工夫が随所に散りばめられている」(高嶋)など、高い評価が集まりました。
 その一方、「主人公の女性が映画館で隣り合わせになった男性にナンパされるというのは、恋愛小説としてはもったいない」(潮凪)という意見もありました。確かに恋愛小説は、男と女がどのようにして出会い、惹かれていくかというシチュエーションの妙も重要な楽しみの要素です。ヒロインと童話作家が出会うシーンも、書店で体がぶつかったあとに、ナンパを連想させる会話がつづくのもベタと言えばベタかもしれません。また、冒頭で二日酔いのヒロインが目覚め、朝食をとるまでのわずかな場面に、膨大な回想シーンや登場人物の来歴についての説明が差しはさまれる構成にも問題ありとの指摘がありました。
 が、何よりヒロインをはじめ、恋の相手である童話作家などのキャラクターが丁寧に描かれているという点では評価が高く、選考を通過することになりました。
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