第二次選考通過作品詳細
『最期の祈り』 咲上 葉琉
渚と麻衣子は、将来を約束した恋人だったが、渚は祖父と台風の日に漁に出て遭難してしまう。 傷心した麻衣子は睡眠薬を飲んで海に入り、自殺をはかるが、すんでのところで助け出される。助けたのは、遭難したはずの渚だった! 奇跡が起こった。だが、そのことを渚は信じられない。 苦悩した末、渚はなぜ奇跡が起こったのか、その真相を探る。 それは、苦い真実だった。
選評
『最期の祈り』は、死んだはずの恋人が生き返るというキリスト教でいう「復活」の奇跡を題材にした幻想的な作品です。
「静かな海、荒れ狂う海、それぞれの情景が浮かんでくる映像喚起力は評価できると思った」(稗田)と、この作品の持つムードは好評でした。「信仰心とい う題材が正面から描かれているところは意欲的。生き返った主人公が、その奇跡を信じて受け入れていくあたりの心理が丁寧に描かれているところが印象的だっ た。ただ、その主人公と一緒に遭難したお祖父さんの扱いが軽すぎて、家族はもっと悲しんでよかったんじゃないかと気になった」(石田)というように、好評 の裏には細部の設定への苦言も多く、冒頭からポンポンと時系列が飛んでしまうストーリーテリングにも難ありとの意見も多く出ました。
また、時系列だけでなく、視点を主人公の一人称から、途中で恋人の一人称に移してしまったのもいただけないとの意見もありました。「この物語の場合、死 の世界から蘇る主人公の一人称で通したほうが効果的だと思う。が、それだと遭難した主人公を待つ恋人が描けないので、無理矢理、もうひとつの視点を持ち出 してきたという印象を受ける」(梅村)、「あるいは三人称で、登場人物たちの感情を俯瞰したほうがよかったのかもしれない。恋人を海で亡くした女性の不安 感、そして、その恋人が蘇ってきたときの歓喜が図式としてキチンと説明されれば、ラストは感動の物語になったのでは。ただ、そのラストは途中でネタが割れ るので、後半はもっとテンポよく畳みかけて、さらなるどんでん返しを仕掛けるといった工夫がほしい」(広坂)という過程で議論は進みましたが、以下の問題 を凌駕するような美点が見当たらなかったため、惜しくも選考通過には至りませんでした。
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