第二次選考通過作品詳細
『恋する理科教師』 風来
田舎町に住む資産家の坊ちゃん先生が、図書館司書の美しい女性に恋をする。彼女は両親と弟を事故で亡くし、葬式の夜に叔父に犯され、それがもとで子供を産めない体になったという過去がある。主人公がゆっくりとユーモラスにヒロインの凍てついた心を溶かしていくさまが楽しいお話です。
選評
『恋する理科教師』は、夏目漱石の名作『坊ちゃん』の文体を用い、一本気な小学校の理科教師が、心に傷を負った美貌の図書館秘書との恋を成就する痛快な物語です。
「ユーモアあふれる文章、魅力的なキャラクター、いいセンスを持った書き手だと思う」(高嶋)、「ユーモア小説として優れた味わいがある。エピローグが長すぎるようにも感じられるが、八重(『坊ちゃん』での清にあたる老婆)往生のくだりは感動的」(広坂)と、その作風に好感を持つ委員が多かったですが、主人公がヒロインと結婚してからのエピローグの冗長さは、多くの委員が指摘した部分でした。
また、「親戚からレイプされ、子供を産めなくなったヒロインという設定は、さすがにエグイ」(梅村)と、ほのぼのした題材と結末に至るエピソードとのちぐはぐ感を指摘する声も多く、昭和という舞台設定についても「子供を産めない女性の心情が、昭和の常識の中で描かれているが、今の平成の時代にはそれが時代錯誤として受け止められないか」(高嶋)といった意見も出ました。
最後に「元社員寮や日本造りの旧家といった舞台が、映像化する際に印象に残る作品」(稗田)との好評価もありましたが、それ以上に強くこの作品を推す声はありませんでした。
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