最終審査講評

大平 洋子 Ohira Yoko / 宝島社「InRed」(インレッド)編集長

『守護天使』 上村 佑

とにかくこの作品には、大いに笑わせてもらいました。さえない中年男のひとりよがりな妄想ラブが、ある意味どうしようもなく純愛で、「こんな風に守られたら女子はうれしいよね」とまで思えてしまうことに驚き。「この作品が大賞に選ばれたら、今後の日本ラブストーリー大賞は先が読めない、おもしろい展開になるだろうな」と思いましたが、その通りになったのもまた驚きです。


『一秒でも長く君と同じ世界にいたい』 かわなべ かろ

とても技巧的な作品で、その勢いに振り落とされないよう読むのは意外に楽しい読書体験でした。ただ、主人公とヒロインの恋愛の部分は少し消化不足で、複雑にからみ合うサブストーリーに相殺されてしまったように感じます。そこで描かれている恋愛がどのような経過を経て、どのような結末を迎えるかをもっとじっくり読みたかったように思います。


『カルナ』 長月 雨音

実は、「あらすじ」を読んだ限りでは、最も期待感のある作品でした。「カルナ」という着想には、ステージの一段高い恋愛観を感じました。ただ、主人公が失恋の痛手に負けて自殺を企てるあたりから、主人公に魅力を感じることができず、ついていけなくなってしまいました。脇役の源爺のエピソードが描けているだけに、主人公が時代を超えて源爺の恋愛を追体験していくのかなという期待感は最後までありましたが残念な結果となりました。


『夏の雪兎』 高田 在子

ストーリーそのものには惹かれるものは感じませんでしたが、働く30代女性の心情がうまく描けているだけに、「これは売れる小説になるかも」と商売心をくすぐられました。ただ、恋愛小説に肝心の出会いのシチュエーションの描き方に、都合がよすぎるものを感じたのもまた事実で、彼女がイケメンの童話作家に惹かれていく心情がもっとよく描けていれば、この作品は強く推せる作品になったに違いありません。


『style』 広木 赤

悲惨で乾いた日常を描きながらも、物語全体がとても淡々とした文体で語られ、悲しく感じないところに魅力を感じました 。特に女の子に関する描写のリアルさは惹かれました。「万引き」をはじめ、「リストカット」、「自殺」といった題材には 目新しさは感じるものの、それらがストーリーの中でかけがえのない意味あるものとまで感じられず、単に通常のモラルとは かけ離れたものに感じ正直引くところもありました。また、「始まる前から終わっている恋」とはいえ、主人公の少年がヒロ インに惹かれていく過程にも、もう少し説明が欲しかったように思います。