最終審査講評
関川 誠 Sekigawa Makoto / 宝島社 取締役編集1局長
『守護天使』 上村 佑
『守護天使』 上村 佑
大賞を受賞したこの作品は、本来ならばラブストーリーというジャンルにはぴったり当てはまらない作品かもしれません。にもかかわらず、この賞に応募してくれた大胆さに感謝したいと思います。ずば抜けたエンターテインメント性と、最初から最後までイッキに読ませるストーリーテリングがこの作品の持ち味ですが、一方ではリストラ、ブログといった現代社会の恐怖にも目が向けられている点にも興味がひかれます。50歳とは思えないみずみずしい感性をもった上村さんの今後の活躍が楽しみです。
『一秒でも長く君と同じ世界にいたい』 かわなべ かろ
ガルシア・マルケスやサミュエル・ベケットを思わせる不条理かつ不思議なストーリーに惹きつけられました。演劇を見るような興奮が味わえる作品です。ふんだんに盛り込まれるアイデアも秀逸でしたが、少々、盛り込みすぎの観も否めません。現実と幻想を交互に描くという複雑な構成をとっているだけに、そこに描かれているストーリーはもっとシンプルで力のあるストーリーであるべきではなかったかという感想を持ちました。主人公とヒロインとの出会いと恋愛の部分が魅力的に描けているだけに残念です。
『カルナ』 長月 雨音
この作品は、何より文章の巧みさに感心しました。その意味では最も小説らしい小説だったと言えるかもしれません。哀しみが具象化した「カルナ」という存在を描き出したいという野心もなかなかのものでしたが、それを物語として描く段に至っては、少々力不足の観がうかがわれたのは残念でした。今後は、プロットを構築する技術を磨けば、かなりの書き手になることでしょう。
『夏の雪兎』 高田 在子
この作品は、最もラブストーリーらしい作品で、34歳のヒロインの日常を描いた部分は、「負け犬」派の女性の共感を得る素晴らしい描写でした。昨年、審査員絶賛賞を受賞した『スイッチ』のOL版かと期待されましたが、それ以外の登場人物とのリアリティに差が出てしまったため、惜しくも作品全体のクオリティが失速してしまったように思います。今後、さらに研鑽をかさね、ストーリーテリングの技術を磨かれることを期待します。
『style』 広木 赤
一風変わったボーイ・ミーツ・ガールもので、特にヒロインの描写には目を瞠るリアリティがあり、驚きました。ただ、その一方で主人公の少年の描写には無駄が多く、読者を物語に惹きつける魅力に欠けているようにも思いました。恋愛小説の読者の多くは、主人公の境遇に共感し、その行く末をともに体験しながらハラハラドキドキするところに楽しみを感じるものだと思いますが、そうした点では評価できる部分が少なかったのが残念です。